【コラムvol.1】ハンガリー料理「グヤーシュレヴェシュ」(gulyásleves)

ハンガリー料理とパプリカ

日本で最も広く知られているハンガリー語の単語といえば、おそらく「パプリカ」(paprika)でしょう。実際パプリカはトウガラシをハンガリーで品種改良したもので、ハンガリーの代表的農産物でもあります。

赤や黄色だけでなく、オレンジや白、緑など鮮やかな色のヴァリエーションが豊かなパプリカには、ビタミンA(カロテン)をはじめ、ビタミンC、ビタミンEなどの栄養素が含まれています。実はビタミンCは、かつてのハンガリー出身の学者セント=ジェルジ・アルベルト(Szent-Györgyi Albert) が、セゲド(Szeged)の大学で研究していた時代に現地名産のパプリカから発見したのだそうです。

このパプリカを粉末にしたものがハンガリー料理の多くに使われていて、その中でも代表的なものが「グヤーシュレヴェシュ」(gulyásleves)というスープ。
コラム第1回目の今回は、この料理についてお話します。

ハンガリーを代表する料理、グヤーシュレヴェシュ

グヤーシュレヴェシュとは、牛肉とタマネギなどの野菜を具にパプリカ粉を加えて煮込んだスープ。「グヤーシュ」(gulyás)とは「牛飼い」、「レベシュ」(leves)は「汁、スープ」を意味するので、直訳すると「牛飼いのスープ」という名前になります。かつては大平原での放牧や農作業の合間の昼食時に、野外で火を起こしてボグラーチ(bogrács)という大鍋で調理され、食されていたという説が有力です。もちろん現代では家庭でも日常的に作られますが、ハンガリーの友人いわく、「庭など野外で、大きなボグラーチにたっぷり煮込んで作った方が美味しい」とのことでした。確かに聞いているだけで美味しそうですよね。

ハンガリーを代表する料理とも言われているグヤーシュレヴェシュは、お店ごと、家庭ごとに味が違うそうで、別の友人は旅行でハンガリーを訪問するたびにさまざまなレストランでの味の食べ比べをしているそうです。

なお、同様の料理はハンガリーの近隣諸国にも伝播していて、ドイツでは「グーラッシュズッペ」(Gulaschsuppe)という煮込み料理として親しまれていますが、それはハンガリー料理の「ペルケルト」(pörkölt)というものに近いです(※ペルケルトに関しましてはまた別の機会に)。ハンガリーのグヤーシュレヴェシュはより舌触りがさらりとしていて、そうですね、どことなくお味噌汁の舌触りを少し濃くしたような印象です。

ハンガリーで出逢ったグヤーシュレヴェシュ

ブダペスト(Budapest)に住んでいた頃は、ハンガリー各地のさまざまなレストランでグヤーシュレヴェシュを堪能しました。当ブログ内で既に紹介した記事を、以下にまとめます。

ブダペスト「サーズエーヴェシュ・エーッテレム」(Százéves Étterem)

「100歳のレストラン」という名の老舗レストランにて。こちらのお店のマジャロシュ・グヤーシュレヴェシュ(Magyaros Gulyásleves)は、ブダペストでトップレベルの美味しさと言っても過言でないほど、絶品でした。

ブダペスト「ポジョニ・キシュヴェンデーグレー」(Pozsonyi Kisvendéglő)

家庭的な雰囲気の店内でいただいたのは、小型版のボグラーチで提供されたグヤーシュレヴェシュ(Gulyásleves)。具材がゴロゴロ入っていて、こちらのお店もブダペストでトップレベルの美味しさでした。

ブダペスト「ニューヨーク・カーヴェーハーズ」(New York Kávéház)

続きましては、とにかくゴージャスな店内でいただいた豆と自家製ヌードル入りの牛肉のグヤーシュ。具材が盛り沢山で、とても上品な味付けで、優雅なひと時を満喫できました。

ケチケメート「ケチメーティ・チャールダ・エーシュ・ボルハーズ」(Kecskeméti Csárda és Borház)

ハンガリー中部のケチケメート(Kecskemét)で出逢ったのは、こちらのお店のアルフェルドの熱々のグヤーシュレヴェシュ チペトケ添え(Alföldi tüzes gulyásleves csipetkével)。「チペトケ」(csipetke)とは、小麦粉で作られる豆粒状のパスタのこと。肉の旨味とパプリカ粉の風味がたっぷり凝縮されていて、どこか家庭的な味わいがヤミツキになりそうな美味しさでした。

ジェール「ラ・マレーダ・エーッテレム・エーシュ・ビストロー」(La Maréda Étterem és Bisztró)

ハンガリー北西部、スロヴァキアやオーストリアにも近いジェール(Győr)のこちらのお店では、マンガリツァ豚のグヤーシュ(Mangalicagulyás)を注文。ハンガリーの「食べられる国宝」とも呼ばれているマンガリツァ豚や皮付きのさつまいもがゴロゴロ入っていて、オーソドックスなスタイルと違った新感覚の味わい&食感を堪能しました。

おわりに

グヤーシュレヴェシュはハンガリー政府が「ハンガリー的なるもの」、つまりハンガリーを代表するものを認証した「フンガリクム」(Hungarikum)にも登録されています。まさに、国家お墨付きの代表料理なんですね。
日本でも提供しているお店がいくつかあるようですし、検索すると日本語で読めるレシピも多数ヒットしました。機会がありましたら、ぜひ食べてみてくださいね。